創作版権ごった煮カオスなブログ。
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ザザッ...ッ
♪ ♪When I'm singing under the sky , you're walking... ――いつもの時間に、ラジオがいつもの唄を奏でだす。 [ Song For You ] ♪Who are you ? Where are you ? ♪I don't know who are you , but I feel my love for you... ♪Who are you ? Where are you ? ♪Please tell me your name. Please hear me your voice... 私は雑音混じりに唄を奏でるラジオに耳を寄せ、そっと唇を動かした。 ラジオの向こう側にいる歌姫のように、スローなメロディに合わせて。 「 」 声は出ない。 それでも唇を動かし続ける。歌 姫 の よ う に 。 ――もう一度、歌いたい、母と一緒に歌っていた頃のように。 私は小さい頃、大切な家族をいっぺんに失ってしまった。 悲惨な事故だった。 隣の豪奢な建物が火事になって、崩れてきた隣の屋根が風に煽られ、私の家を直撃したのだ。 お世辞にも綺麗な家とは言いがたかった私の家は、ひとたまりもなかった。 父さんも、母さんも、姉さんも、兄さんも、母さんのお腹にいた妹も、 一瞬にして、瓦礫の下敷きになった。 その頃、妹を身篭っていた母の代わりに買い物へ行っていた私だけ、助かった。 目の前で瓦礫の山と化した家から、家族を救い出す術を、私は持っていなかった。 ただ、瓦礫の山の前で狂ったように叫び続けていたらしい。 それ以来、私の声は、母が歌姫みたいに綺麗と言ってくれた声は、どこかへ消えてしまった。 どうやっても声が出ず、コミュニケーションをとる方法も少なかったので、私は引き取ってくれた伯母の家からほとんど出なかった。 家事を手伝い、暇な時は本を読んで、ラジオを聴き、気がつけば事故から9年が経っていた。 物思いに耽りつつ聴いていた唄は佳境に差し掛かり、もうすぐ終わりそうだった。 次の日も、同じ時間にラジオをつけ、いつもの唄を聴く。 綺麗な声。 歌っている女性はとても有名で、出したレコードは全て、人気で手に入りにくいそうだ。 私は中古のものだが、一枚だけ、持っている。 いつも聴いている曲のレコード。3年前、必死でお小遣いをためて買ったもので、私の宝物だ。 ♪I want you to walk with me , I want to talk you... ♪Please listen to my song. It's my feel for you... 大好きなフレーズに差し掛かり、私は右耳をラジオに押し付けた。 いつもの癖だ。 ♪Dear... Dear my beloved , I want to walk with you... ♪Please hear me your voice , I want to sing with you... 突如、ラジオとは正反対から聞こえてきた歌声。 低くて、よく響く声。 ――男の子、かな。 ラジオの歌姫の声とよく合う低い声。 私は導かれるように、ラジオから顔を離して窓際へと向かった。 ♪Please walk to me... 窓から顔を出し、歌声を探して辺りを見回す。 自分のすぐ真下、地上を見ると、つなぎを着た茶髪の男の子が壁にもたれて歌っていた。 「!…やべっ」 彼は私に気付くと、弾かれたように走り出した。 彼はみるみると大通りの人ごみに紛れていく。 ――待って! 私は急いで部屋を出、階下へ下り、玄関から飛び出した。 彼は――見えない。 私は大通りの人ごみの中へと身を躍らせた。 確か、彼はまっすぐに走っていったはず…! 足を踏まれ、もみくちゃにされつつも必死で走る。 うたがききたい。もっと、かれのこえがききたい 「――、!」 見つけた。小さな仕立て屋のショーウィンドウの前。 彼は背を折って、肩で息をしている。相当走ったのだろう。 私は必死で人を押しのけ、彼の服を掴んだ。 「わぁぁあっ!?」 彼は驚いて私のほうへ振り返る。 つんつんと跳ねた茶色の髪に、鮮やかな翠の眼、頬にはそばかすと、擦れたような煤の跡。 「か、勝手に聴いててすみません!ただちょっと、好きな唄で……」 「――――」 「……え?あの、今なんて言った?周りがうるさくて、よく聞こえなくて……」 違うの、と言いたかったけれど、都合よく声が出てくれるわけは無かった。 代わりに頭を横に振る。 「?……えっと、とにかく、勝手にラジオ聴いて、歌っててすみません。うるさくして気を……」 彼には通じていない。 「あ、えっと、邪魔、だったよね。俺なんかが歌ってて」 違う。 「音痴だし、やっぱ、本物の歌姫の、綺麗な声の邪魔して――」 「――――、」 違うの。 お願い、通じて。 「――、……の」 「え?」 「ち、がう……の」 「……?」 「もっと、うた、ききたく、て、おいかけて、きた の。だから、にげ ないで おねがい……」 9年ぶりに発した言葉は拙くて、まるで小さな子供のようだった。 おまけに、泣いていた。 もっと、子供みたい。 「え、あ、俺の?」 「うん……うたと、よくあってて、キレイだった……」 「て、てゆーかさ、君、もしかして、歌姫だったり、する?」 「え?」 「声、そっくりなんだよね。ほら、歌のレコードとか、インタビューの記録とかの声と凄くよく似てる」 「歌姫……」 私がどう答えるべきか迷っている間に、彼は私の目をじっと見ていた。 ………………恥かしい。 「えっと、私は、歌姫じゃないよ。歌姫は――」 「歌姫は?」 「9年前に死んだ、私の母さん」 私の母さんは、とても有名な歌手だったと聞いたのは、去年、私の15の誕生日。 伯母さんは、私が大きくなるまで、と待っていてくれていたのだ。 母さんは私を身篭ってから、歌手をやめ、各地を転々として暮らしていたらしい。 「私は歌姫――マリアナ・ヴァルクスの娘、アイシア・ヴァルクス」 「…………マジで?」 「うん」 私が素直に頷くと、彼はずるずるとショーウィンドウを背にして座り込んだ。 そして片手で顔を覆った。このことがかなり信じられないらしい。 「うわ、なんていうか……すごい、偶然……」 「運命、なのかもね」 「なのかなぁ……」 ふふ、と私の口から笑い声が漏れた。 彼も私を見て、笑い出す。 「そうだ、私、あなたの名前、聞いてなかった。教えてくれる?」 「もちろん。俺は、ジャック・リヴ。ここを真っ直ぐに言ったところにある機械工の跡継ぎ」 「きかいこう?」 「そ、汽車の部品から時計の螺子まで、機械ならなんでも扱ってるところ」 「すごい!」 「まだ見習いで、使いっぱしりしかできないんだけどね」 「それでもすごいよ!将来は立派な機械工になるんでしょ」 「もちろん!アイシアは?」 「私?私、は――……。歌姫、かな」 「お母さんを超えるくらいの?」 「もちろん!」 私たちは再び笑った。彼、ジャックといると、とても楽しい。 「じゃあさ、今じゃなくてもいいから、歌ってくれる?」 「……今度、なら、いいよ」 「それじゃ、約束!」 「うん!」 それから私たちは、座り込んで色々な話をした。 家族のこと、好きな曲、未来の夢――。 そんな事をしているうちに、時計台の長針が一回りし、鐘が5回鳴った。 「ヤッベ!使いの帰りだったんだっけ!親父に殴られる!」 「私も、伯母さんになんにも言わずに来ちゃった……」 「それじゃ、俺、戻る!またな!!アイシア!」 「う、うん!またね!!ジャック!!」 久しぶりの大声で、彼の名を叫び、大きく手を振った。 さて、帰ったら、母さんのレコードをかけて、歌の練習をしなきゃ。 ジャックの歌と合わせられるように、がんばらなきゃ。 そんな事を考えながら、私は人ごみの向こう、家へと向かった。 朗らかな陽光の差し込む午後3時、町中のラジオから歌姫のメロディが流れ出す。 ♪Who are you ? Where are you ? ♪I don't know who are you , but I feel my love for you... 美しいメロディに乗せて、澄んだ声が響き渡る。 2階の窓から顔を出したちいさな歌姫は、優しく歌い続ける。 その歌声に、低い声が重なった。低く、それでいてよく響く声。 レンガの壁にもたれたちいさな機械工は、力強く歌い続ける。 ♪Who are you ? Where are you ? ♪Please tell me your name. Please hear me your voice... FIN PR 2006/10/15(Sun) 18:30:37
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