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2024/11/22(Fri) 23:14:47
「“D”だ」

「なんでここに…」


「仕事帰りだろ?」

「気味悪いな」


「まさに『死神』って感じだよなぁ」
「俺たちが言えたことじゃねぇけどな」




Track 01 WORK



漆黒の髪の青年はそんな声を気にも留めず歩き続ける。
たどり着いたのは何の変哲も無い扉の前。
扉には只、



とだけ刻まれていた。

彼は小脇に抱えていた小包と書類を確認し、灰色の扉をノックした。

「登録ナンバー[D-6413]です」
「入れ」

返事の声が聞こえるや否や、青年はドアを蹴り開けていた。

「おや、」
「仕事は無事に終了いたしました。僕はこれから休みますので寝かせてください。いいですね?」

青年は有無を言わさぬ口調でそうだけ告げ、小包と書類を部屋の窓際にある机へと投げた。

「ふふ、よほど疲れているようだね。お疲れ様。でも報告して貰わないと私はとても困るんだけどなぁ?」
「文字と文章を理解できる位の知能があるんでしたらご自分で読むことを推奨します」
「そうじゃなくて、私は土産話が聞きたいんだよ」
「他の人からどうぞ」
「私は『君の』土産話が聞きたいんだよね」
「…………」

いきなり押し黙った青年は蒼い眼で目の前の男性を見据えた。
見据えられた男性―おそらく青年の上司―はつまらなそうに肩を竦めた。

「……ふざけるのは止めにしようか。で、標的の処理は?」
「予想通り、向こうは反抗しましたが、無事に完了しました」
「なるほど。で、罪名は?」
「審判官からは『生前における殺人』と『死後における呪殺』の疑いがある、と」
「……全く、ヒトとは小難しい生き物だね?いやナマモノの方がいいかな?」
「あまり変わりは無いと思いますが」
「まぁいい。何故、罪を犯すのか、私にはさっぱりだ」
「それは僕も同じです」
「何故、罪を犯す?自分には何も利益が無いというのに」
「……」
「同じヒトを欺き、陥れ、殺して何になる?」
「……」
「何故自らの首を絞める?」
「……」
「結局は未練、なのだろうね。ヒトを『罪』へ走らせるものは……」
「……」
「あんなことをしてみたい、見てみたい、聞いてみたい……。基本的な願いが暴走したのか、ただ異常な性癖だったのか……」

先ほどから何も言わず、顔を伏せたままの青年に対し、男は上気した顔で話し続ける。

「決められた時の中で、罪を犯さずに生きる。昔のような戦乱の時代ならともかく、安定し、満たされた暮らしの中で罪を犯すメリットはあるのだろうか?」
「……」
「あるはずがない、そんな物はあってはならない。まず、世界が豊かになりすぎたのが原因なのかもしれないね」
「……」
「全てが手に入る故に、禁じられたものを手に入れようとする。まるで、聖書におけるアダムとイヴのようにね」
「……」
「結局は、満ち足りない欲求を抱えているからそうなる。全く、嫌になるね。私達が元々そうだったと思うと……」
「……話は終わりましたか?」
「……は?」

青年は顔を上げ、大欠伸を噛み殺しつつ、目の前の男を見た。
眉間に皺が寄っている。

「僕は寝たいんですが」
「……。まぁいい。また今度話そうか」
「結構です」
「……。ゆっくり休みなさい。次に支障が出ないようにね」
「もちろんです。それでは、失礼します」
「……ギルレイス、君はまだ悔やんでいるか?」
「何を、ですか」
「いや、いい。長々と悪かったね」
「はい。それでは」

男に背を向け、ギルレイスと呼ばれた青年は部屋から消えた。





かつん、かつん


乾いた音を立てて彼が廊下を歩く。
その後には、いつものように、囁きが満ちていた。

「機械みてぇだ」

「こわいよぉ」


「なんとも思わないのかしら」

「なにを?」



「ヒトを、狩ることを」


彼は振り向かない。決して、見返らない。

過去も未来さえも、彼には残っていないのだから。



Track01 Fin

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2006/10/22(Sun) 17:21:43
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