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2024/11/22(Fri) 12:38:53
(長いです)

ある日の午後の出会い。

MEMORY-LOG001


薄汚れたビルの入り口の前に、真新しいブレザーを着た青年が立っていた。
梅雨明けの晴れた空とは正反対の、曇った表情でビルを見上げている。
 
ただただビルを見上げる彼の周囲には、人はおろか野良猫さえもいない。
現在彼がいる地域は「内戦」当時、比較的戦闘が多かった場所で、その為か民家もほとんど存在しないのだ。
よくよく見れば、他の建物の壁に弾痕が残っている場所も少なくない。
 
彼の目の前にあるビルは当時病院として使われていたらしく、彼の少し横には『緊急外科』とだけ書かれた、錆びた看板が立っている。
だがそのビルの外観は少し大きめの雑居ビルと言ってもおかしくないもので、どう頑張っても病院には見えない。
彼はぎこちない動きで看板を一瞥し、盛大な溜息を吐いた。
 
「なんで忘れるかな…」
 
ぽつり、とそれだけを呟き、再び溜息。
恨めしそうな目でビルを見上げ、意を決したように大きく深呼吸をした。
 
「ぃよし!」
 
再びそれだけを呟き、足早にビルの中へと歩いていった。
入り口の奥に潜んでいた暗がりが彼を飲み込んだ。
 

「暗っ……」
 
電気などとうの昔に切れているビル内は薄暗い。
窓から光が差し込んでいるおかげで、動き回ることに関しては問題無いのだが、中途半端な暗さが恐怖感を煽る。
放置された椅子や枯れた観葉植物が色濃く影を落とし、かつてここに居た誰かの息遣いを感じさせる。
 
曇っていた表情をさらに曇らせながら、彼は携帯電話のライト機能を起動させ、さらに歩みを進た。
大きい窓ガラス越しに出来た初夏の日向の上を、無機質なライトが通っていく。
 
随分とこぢんまりとした受付を通り過ぎ、受付のすぐ近く、もう動かないエレベーターの横にある階段を上る。
ロビーと比べて随分暗い階段に、くぐもった靴音が響く。
 
『3』とだけ書かれた、くすんだ色のプレートを一瞥し、彼は大きく息をついた。
さらに上の階―おそらく屋上―へ上る階段は、放棄されたテーブルや椅子、固く封がされた箱などで塞がれている。
 
不意に、彼の脳裏に今朝の友人との会話が浮かぶ。
 
『なー、俺のバットしらね?』
『わり、明日の部活で使うから探してきてくれねぇ?』
『マジ頼む、今日、追試とバイト入っててさ、家帰んの9時過ぎんだよ』
「……」
彼は再び大きく溜息をついた。
そして、非常に面倒だと言わんばかりに、頭をぼりぼりと掻く。
 
止めていた歩みを再び進め、階段よりは幾分か明るい廊下を歩く。
この病院はどうやら雑居ビルを改造したものらしく、病室は大量にあるが、処置室・手術室などは全く見当たらない。
もし彼が向かって左側の部屋に入り、窓から下を見れば、取ってつけたような灰色の建物が見えただろう。
その灰色の箱とビルは細い廊下で繋がっており、当時の医者たちはあの箱の中で働いていたことが推測できる。
 
 
奥から四番目の部屋の扉を開け、彼は室内へと入った。
何もない室内の壁には、色とりどりの落書きが、その真下の床にはチョークの破片や粉が散乱している。
掠れたピンクの相合傘、灰色の壁に溶け込んだ白の憎まれ口、薄く色を残した黄色の見栄。
書かれた当時は色鮮やかだっただろう落書きたちが、彼を出迎えた。
 
壊れた窓からの日差しのおかげで、部屋の中はライトが不必要なほどに明るい。
彼は部屋の隅々を見渡すが、バットと思しきものはない。というより、その部屋には家具はおろか、カーテンさえも、何もなかったのだ。
 
「……あっちか?」
彼は軽く眉をしかめ、口内でぶちぶちと友人への恨み言を言いつつ部屋を出た。
見向きもされなかった過去の跡だけが、部屋に残る。
 
再び廊下に出、さらに奥の部屋へと入ろうとしたが、他の部屋同様に、扉のノブが壊れていて入ることは出来ない。
押しても引いても開かないことを確認すると、さらに奥の扉へ。
 
奥から二番目の扉を何度か押してみると、ぎぃ、と朽ちた音を立てて開いた。壊れた窓から注ぐ光が、扉を開けた反動で舞う埃に反射して、ちかちかと煌く。
彼は一歩後ろへ下がり、一つくしゃみをしてから、埃を吸わぬように手で口と鼻を覆った。
ゆっくりと部屋の中を覗き込むが、床に積もった埃には足跡ひとつ無く、誰かが入った痕跡などは勿論ない。
廃ビルとなった当時から誰も入っていないのだろう。となれば、彼の探し物はここにはない。
埃が舞わぬようにゆっくりと扉を閉め、廊下の奥へと目をやった。
 
最後に残ったのは一番奥の扉。廊下の突き当たりの窓から、四角く切り取られた青空が覗く。見覚えのある光景。
彼の脳裏に数日前の記憶が浮かび上がってくる。そこは『あの日記』を見つけた部屋だ、と。
 
ノブに手をかけ、ゆっくりと力を込めると、扉は先ほどのものとは違いすんなりと開いた。
先程のように埃を吸わぬようゆっくりと中を窺うが、特に埃っぽくも無く、窓が開いているのか、暖かい風が彼の横を通り過ぎていった。
 
部屋には使い古された黒いデスクと椅子と簡素なベッドが置き去りにされていた。
多少の汚れはあるものの、誰かが使っている形跡がある。ホームレスか何かがねぐらにでもしているのだろうか。
よくよく見れば、椅子の近くに、黒い円筒状のものが転がっている。――友人のバットケースだった。
 
探し物がようやく見つかったことの安堵感からか、彼の口から長いため息が漏れた。
そして腰を屈め、バットに手を伸ばす。
 
「……お前、何だ?」
 
部屋の奥、ちょうど窓際のあたりから、質疑の声が彼に向かって放たれた。
突然のことに、声にならない絶叫が彼の口から飛び出す。
 
……」
 
デスクの端に腰掛けた白髪の少年―もしかしたら少女かもしれない―は、うるさそうに顔を顰めた。
彼は早鐘よりも早く打ち続ける心臓を深呼吸で落ち着かせつつ、声の主を見た。
肩につく位の白い髪、彼を見据える金色の隻眼、小柄な身体、季節外れの、喪服のような黒いコート。
異質といっていいほどの違和感を伴う少年は、まるで擬態のように、モノクロームの部屋に溶け込んでいた。
日に焼けていない肌と鮮やかな金の瞳が、唯一混じりきっていなかった。
 
黒いコートが、窓から入り込んできた風に揺れる。
 
たっぷりと間を置いてから、彼の心臓はようやく落ち着きを取り戻したが、彼の脳内は混乱したままだ。
黒コートの少年は何も言わず、ただ彼の返答を待っている。
 
「……学生?が何か用か?」
 
声変わり前の高い声で少年が再び問う。
学生、と呼ばれた青年は何度か舌を噛みつつやっとのことで答えた。
 
「あ、ただと、友達の忘れ物とりき、取りに来ただけで!特に用らしい用ってのは」
「ふぅん」
 
少年は青年の言葉を遮って、興味なさそうに会話を終わらせ、窓の外へと視線をやった。
青年の位置――ドアの前では、窓からは向かいのビルの壁しか見えない。
もしかしたら少年の位置からならば、空くらいは見えるのかも知れない。
 
興味を失われた彼は早口にまくし立てながらドアノブを握った。
 
「なんかホントお邪魔してすみませ」
「お前、名前は?」
 
少年が視線を青年に戻しつつ問うた。
 
「え、……俺?……俺は、三河…陸哉っていいます」
「ミカワリクヤ……」
 
少年は視線を床に落とし、何かを考えているようだったが、しばらくすると再び視線を彼――陸哉に戻した。
 
「ん、そうか。違うみたいだな」
「は?」
 
一人で考え、合点した少年は、視線を窓に向ける。
陸哉がどうしようかと悩んでいると、彼の携帯がけたたましく鳴り始めた。メールの受信音だ。
急いで取り出してディスプレイを見ると、『母』とだけ表示されている。おそらく何か買い物でも頼みたいのだろう。
 
陸哉は急いで携帯をポケットにしまい、ドアを開けた。
 
「じゃーな」
 
少年の背中から気の抜けた挨拶がかかる。
 
何か言おうとした瞬間、再び携帯が鳴り始めた。今度は電話の方だ。
口から出かけた言葉を飲み込み、廊下を走って階段を駆け下り、入り口から外へ飛び出た。
 
バットを忘れたのとはまた違う友人からの電話に応えつつ、彼はビルを見上げる。
少年がいた部屋はビルの反対側なので、見えるはずも無い。
 
日記のことを訊けばよかった、と少し後悔しつつ、陸哉は帰路についた。
 
 

日記パート(DIALOG)と物語パート(MEMORY-LOG)交互でやっていく予定です。
PCの反乱のおかげでストーリーが微妙に変わりましt←

002アップとあわせて、001のほうも多少書き直しました。

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2008/12/02(Tue) 22:47:25
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